老プログラマー、教育の「沼」にはまる
【PR記事】AkaDako物語 第1回
老プログラマー、教育の「沼」にはまる
〜なぜAkaDakoは生まれたのか?~
文:高松基広
イラスト:青空とんぼ
ギジュツドットコムをご覧になられている先生方、こんにちは!
「AkaDako(アカダコ)」というデバイスをご存じでしょうか? AkaDakoは、GIGAスクール端末でフィジカルコンピューティングを行うために開発した拡張ボードです。
申し遅れました。僕は株式会社 TFabWorks(Teacher Fabrication Works=先生のためのものづくり工房)という会社の代表を務めております、高松基広と申します。「micro:bitであそぼう!」「micro:bitプログラム制御スイッチ」「ふきだしくん」「天板拡張くん」の作者といった方がご存じの方もいるかもしれません(いて欲しい…笑)。

「なぜ今、新しいデバイスなのか?」 「micro:bitと何が違うの?」
そんな疑問にお答えするために、まずは開発に至るまでのストーリーにお付き合いください。
■衝撃のニュース
もともと僕は、企業向けシステム開発を本業とする教育とは無縁のプログラマーでした。 茨城県のつくば市と守谷市で子供向けプログラミング道場(CoderDojo ※1)を主催をしてはいましたが、あくまで、ボランティアとして楽しんでいただけです。
転機は2016年。衝撃的なニュースが飛び込んできました。
「イギリスBBC、11〜12歳の全児童にmicro:bitを100万台無料配布」
「ヤバい……日本は完全に置いていかれる……」そう思った方も、少なくなかったのではないでしょうか? 僕もその一人でした。
そしてこのニュースから数カ月後、スイッチサイエンスさんからmicro:bit互換機「chibi:bit」が発売されます。
「スゲー! これなら子どもたちと遊べる!」
僕は一瞬でmicro:bitの虜になってしまったのです。
※1 7〜17歳の子どもを主な対象とした無料のプログラミング道場(クラブ)です。アイルランドで2011年に始まった国際的な非営利活動で、世界中、そして日本国内にも多数の道場が存在します。
■運命を変える出来事
2017年。僕の運命を変える出来事が起こります。micro:bit財団が「1st anniversary」という世界コンテストを開催しました。試しに応募してみたところ、なんと入賞してしまったんです。そして、micro:bit財団から
「イギリスの教育イベントで入賞作品を展示したいからロンドンに来て!」
という一通のメールが届きました。
恥ずかしながらメッチャ英語が苦手で、行くかどうかかなり悩んだのですが、
「イギリスでどんなmicro:bitの授業が行われているのか見てみたい」
という衝動が勝り、気が付けば渡英していました。
■ロンドンでのカルチャーショック
ロンドンのイベント会場に着くと、micro:bit財団の人たちがとても暖かく迎えてくれました。展示ブースには、すでにいくつかの入賞作品が展示されていたのですが、なんと作品を説明しているのは入賞した各国の子どもたち。図らずとも、子どもたちに混ざって、一人、日本人のオッサンが立っているという笑える構図になりました。
この展示で凄かったのが香港の子どもたちです。作品(自動栽培システム)のクオリティもヤバかったのですが、香港から来た先生方の視察団と報道陣が大勢集まる中、誇らしげに作品を説明している姿にカルチャーショックを受けました。
「これはアカン!日本は香港にも置いてかれてしまう…」
と、一人、危機感を抱きました。
なお、今回のロンドン行きの目的だったmicro:bitの授業見学について、事前に現地のエージェントにお願いしておいたのですが「授業を行っている学校が見つけられませんでした」との回答。「えっ!? じゃぁBBCが配布した100万台のmicro:bitはどうなっちゃったの?」と疑問に思いながら帰国の途につきました。
■人生を変えた「一本の電話」
帰国後もずっーと
「日本の学校にも、この素晴らしいmicro:bitを広めないとマズくね?」
という危機感が頭から離れませんでした。しかし、学校教育とは縁もゆかりもない一介の老プログラマー。どうしたらいいかも判らず時が過ぎていきました。
そんなある日、一本の電話がかかってきました。
「ネット販売しているmico:bit 扇風機、現在、品切れになっているようなのですが、至急まとまった数がほしいんです」
実はこの頃、micro:bitでPWM制御できる卓上扇風機を趣味でネット販売していました。電話の主は、東京都港区理科部会のK先生。なんでまた小学校の先生があんな物を…と思ってよくよく話を聞いてみると、
「2017年に出た指導要領では2020年から小学校でもプログラミング教育が始まる事になったんです。micro:bit扇風機は授業で使う教材に非常に適しているんです。」
とK先生。
教育に全く縁が無かった僕は、指導要領が改定された事も知らず、2020年から小学校でプログラミング教育が始まる事も知らなかったんです。結局、K先生とメッチャ盛
り上がり、なんとこの電話を切った時には、東京都港区理科部会でプログラミング教育の研修講師をすることになっていました(笑)
こうして、僕の研修講師人生が思いがけず幕を開け、教育の沼に順調(?)にハマっていくのでした。その後は、徐々に人脈が広まり、小学校を中心に各地で研修や出前授業を行うようになって行きました。
また、技術評論社では「micro:bitであそぼう!」を出版する機会に恵まれ、東京書籍では中学技術の教科書編集のお手伝いをする機会をいただきました。会社では、ハードウェア技術者の森田がジョインしてくれたおかげで、日本の単元にあわせたmicro:bit周辺機器が数多く生まれていきました。
■小学校プログラミング教育の夜が明けた2020年
小学校で指導要領が実施される2020年に向けて、プログラミング教材の整備、研修、そして研究授業が全国の自治体で実施されていきました。同時に僕たちも、フル回転になりmicro:bit周辺機器も相当な数が出荷されていきました。
ご存じの方も多いと思いますが、日本の小学校プログラミング教育はAからFに分類され、micro:bitはこのA分類である小学校6年理科「電気の利用」という単元が主戦場となりました。この単元は、通常6年生の3学期に実施される単元なので、僕たちは
「これだけ販売したのだから、3学期に向けて使い方に関する問い合わせが大量に来るにちがいない」
と嬉しい悲鳴を上げる覚悟で、その時が来るのを待ち構えていました。
いよいよ3学期が近づいてきました。僕のSNSのタイムラインは各地でのmicro:bitの実践の様子が流れ、初めはニコニコしながらスマホを眺めていたのですが、会社の電話やメールには、想定してたような大量の問い合わせがきません。「あれ?なんでだろう??」不思議に思った僕は、恐る恐る、研修を受けていただいた先生方に電話をしてみました。すると、さまざまな事情から授業が実施できていない事が判りました。そう、僕のSNSのタイムラインは完全にエコーチェンバーになっていたんです。全国的には、現実としてあまり授業が実施されていない可能性が見えてきました。
■これでいいんだっけ?
micro:bit周辺機器は売れたので、ビジネスとしては成立しました。ただ、多くの製品が学校でホコリを被っている状況。これは僕が実現したかった世界ではありません。イギリスや香港に遅れを取らない日本であるためのお手伝いをする事が目標だったはずです。
経営者としては、多分、ここで手を引くのが正解だったと思います。現に、2020年の小学校プログラミング教育スタートの時に、集まった多くの企業は潮が引くように去っていきました。
でもですね…、僕はもう、教育の魅力に取り憑かれてしまい、完全に沼から出られなくなってしまったんです(笑)
■すべての子どもたちが「もっとやりたい!」と思える世界を
micro:bitの普及活動をスタートした当初に僕が書いた「なぜ小学校の先生はmicro:bitを知らないのか?」というブログがあります。このブログをみた小学校の先生から

というコメントをいただきました。この先生、なんと、この投稿の256日後に、僕たちが作ったmicro:bit周辺機器を使った授業に招待してくれたんです!あの日の光景は、今でも忘れられません。
自分が手掛けたプロダクトで、子どもたちがワクワクしながら学んでいる姿。授業終了のチャイムが鳴った瞬間、教室に響いた「えー!もっとやりたーい!」という声。思わず、目頭が熱くなりました。
micro:bitは、間違いなく世界を変えた素晴らしいデバイスです。
ただ、日本の教育環境で、すべての子どもたちが「もっとやりたい!」と思える授業を実現するためには何かが必要だと思うようになりました。僕たちの新たな挑戦は、こうして始まったのです。
次回は、AkaDakoがどのようにして今の形になったのかについてお話したいと思います。お楽しみに!
株式会社ティーファブワークス 代表取締役 高松基広
連載:子供の科学「AkaDakoものづくりラボ」(誠文堂新光社)
編集協力:
中学校教科書「新しい技術・家庭」(東京書籍)
高校教科書「情報I」(開隆堂)
著書:「micro:bitであそぼう!」(技術評論社)
発明・開発:天板拡張くん、ふきだしくん、AkaDako、他
Facebook : https://www.facebook.com/asondemita
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公式サイト: https://akadako.com
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