懐中電灯の観察,分解・組み立て
1.はじめに
中学校 技術・家庭科(技術分野)の「C.エネルギー変換の技術」において、発電システムの仕組みとエ ネルギー変換の仕組みを学習する。
エネルギー変換を利用した製品には、電気エネルギーを熱、光、動力に変換するエネルギー変換、力学 的な構造が用いられたエネルギー変換、それぞれの技術を複合していることが多い。そこで、身の回りの生 活において使用する簡単な製品である懐中電灯を用いて、観察、分解・組立てを行った。
(懐中電灯:DAISO 製「手動発電 2LED ライト」、定価 100 円税抜き)
写真1 外観目視観察
2.学習活動の手順
(1)外観目視観察
懐中電灯の筐体が半透明ポリスチレンであるため、内部の様子を分解しなくても観察することができ
る。分解した時の興味・関心を高めるため、先に外観目視観察を行って懐中電灯の仕組みを推定する。
(2)動作確認
懐中電灯の外装に記載されている「ご使用方法」を読んで動作させる。また、使用上の注意、製品の 材質、製造メーカ、ロット番号、環境に関するマーク(プラスチック製容器包装)などの情報を読み取る。
(3)分解・組立て
組立てることを想定して分解を行う。つまり、分解の手順、部品の位置、ねじ締付けトルクなどを観察し
ながら分解を行ない、分解の手順と逆の工程で組立てることを想定する。 分解したら、内部を観察してスケッチを行う。特に、電気回路については、負荷と電源、導線のつながり
を理解しながら、図記号を用いて電気回路の回路図を作成する。
(4)レポート作成
学習活動から学んだ事柄をレポートにまとめる。レポートの内容は、以下の3点とする。
① 電気、運動の特性等の原理・法則について理解できたこと。
② エネルギー変換や伝達等に関わる基礎的な技術の仕組みについて理解したこと。
③ 技術に込められた問題解決の工夫について考えたこと。
(社会的側面、経済的側面、環境的側面の3つの側面から見た技術)
写真2 外装袋の記載事項
3.内部の目視観察
分解した懐中電灯の全体を写真3に示す。ここには、電気部品、機械(機構)部品、樹脂部品、金属部品 で構成されていることが観察できる。なお、部分的に拡大した写真を写真4~写真9に示す。
(1)電気部品
LED、抵抗、ボタン電池、スライドスイッチ、導線、エナメル線
(2)機械(機構)
部品 歯車、ピニオン(欠歯ピニオン)、ラチェットホイール、爪(送り爪、戻り止め爪)、磁石
(3)樹脂部品
本体(筐体)、ストラップ、ハンドレバー、レンズ、スイッチカバー、歯車類
(4)金属部品
発電機の回転軸、ハンドグリップの軸、バネ、ねじ、ストラップかしめ
写真3 懐中電灯の全体
写真4 発電部分(コイル:固定、磁石:回転)
写真5 電池ボックス(電池3個)と LED(2 個)
写真6 歯車の回転機構とスライドスイッチ
写真7 レンズ
写真8 電池ボックスの電圧測定
写真9 ピニオンの機構(ハンドグリップ、バネ、軸)
4.速度伝達比を求める
駆動軸(原動車)と被動軸(従動車)の回転速度の比を速度伝達比という。ここで、ハンドグリップを 1 回握ったときに発電機の磁石が回転する回転数を計算で求める。握ったときの力は、ハンドグリップ、2 段 減速歯車、爪付き歯車、ラチェットホイールの順に伝わる。それぞれの機械部品を写真 10 に示す。
① ハンドグリップ(ピニオン) 【Z1=11】
② 2 段減速歯車 【小:Z2=10、大:Z3=81】
③ 爪付き歯車 【Z4=12】
④ ラチェットホイール 【Z5=12】
・ハンドグリップから 2 段減速歯車への速度伝達比は、Z2/Z1=10/11=0.91
・2 段減速歯車の速度伝達比は、Z3/Z2=81/10=8.1
・2 段減速歯車から爪付き歯車への速度伝達比は、Z4/Z3=12/81=0.15
・爪付き歯車からラチェットホイールへの速度伝達比は、Z5/Z4=12/12=1.0
したがって、ハンドグリップからラチェットホイールへの速度伝達比は、0.91×8.1×0.15×1.0=1.1 と求まる。これより、ハンドグリップを 1 回握ることで発電機が 11×1.1=12 回転する。
写真 10 機構部品
5.まとめ
身近で入手可能な教材として、100 円ショップで販売されている「手動発電 2LED ライト」を紹介した。 この製品は、電気部品、機械(機構)部品、樹脂部品、金属部品で構成されているので「C.エネルギー変換 の技術」において、電気分野と機械分野をカバーすることができる。更に、「A.材料と加工の技術」におい て、樹脂材料と金属材料に触れることができる。更に、調べ学習を含めることで発展的な学習ができる。
電磁誘導の法則や速度伝達比などの原理・法則に触れることができ、エネルギー変換や伝達等に関わ る基礎的な技術の仕組みについて理解することができる。また、防災用品として使用される製品から社会 的な側面、部品点数が多い製品であるが 100 円という経済的な側面、再生可能な樹脂を使用するという 環境的な側面など、技術に込められた問題解決の工夫についても考えることのできる教材である。
投稿者:村瀬 吉孝(兵庫県)
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