産業技術遺産探訪 2011.4.29.

浅川油田

長野県長野市真光寺

日本で最初の石油会社である「長野石炭油会社」は、浅川油田をもとにして1871(明治4)年8月に設立されました。

 浅川油田の由来

 浅川油田の石油採掘の歴史は実に250年間の長きにおよぶ。浅川真光寺の石油産出が最初に文献に登場するのは、江戸時代の宝暦3年(1753)である。瀬下敬忠が「千曲真砂」の中で「地中より油涌き出る所有」と紹介したのが初出である。天明4年(1784)にこの地を訪れた菅江真澄は、臭水(草生水・くそうず)がわく井戸が、川をへだてて二つ並んでおり、越後の臭水とだいたい似ていると記している。
 天保4年(1833)に刊行された井出道貞の「信濃奇勝録」には、浅川の岸辺に石油井戸が描かれている。弘化4年(1847)に起こった善光寺地震に伴い、燃えるガス(風草生水・天然ガス)が噴出し、このあたりは新地獄と呼ばれた。権堂村の名主であった永井善左衛門は、このようすを見物して「地震後世俗語之種」の中に一枚の絵として残している。
 安政3年(1856)になると地元真光寺村の新井藤左衛門は、越後の人の教示によって、十二本の井戸を掘り、一昼夜に十石(1.8立方メートル)以上の産出をみたという。後に藤左衛門は石油の神様の持国大明神として祭られた。
明治3年ころには、藤左衛門の後継者の新井藤八はじめ数人の石油業者がみられたが、この浅川の石油をもとに日本で最初の石油会社を創設したのは飯山桑名川出身の石坂周造である。明治4年(1871)8月、信越等五国の石油開発許可を受け、資本金3万円で日本最初の長野石炭油会社(当時は石油とはいわずに石炭油と呼んでいた)を設立し、本社は、東京神田明神下の大岡越前守屋敷跡(現外神田三丁目、認可は明治5年7月)に置いた。
 明治4年前半の産出量は716石(129立方メートル)で、石坂は石堂町苅萱山西光寺境内に日本最初の石油精製所をつくり、伺去真光寺村で掘った石油を荷車や馬の背で運んで石油の精製を始めたのである。
 明治5年(1872)には会社の名を「石油会社」に変更し、多額の設備投資をして新しい機械を購入したが、産出量は1240石余(224立方メートル)であまり増えず、長野、静岡、新潟に鉱区を広げ、アメリカより取り寄せた機械で機械堀りを始めたが失敗に終わる。
明治8年には長野精油所を道路を挟んだ南石堂町内に移転して西洋風の社屋を建てるが、2年後の明治10年12月には焼失し、明治14年には石坂もこの会社から手を引いたために、この会社はつぶれてしまう。
 その後も西沢源治らによって石油の採掘は続けられたが、産出量が少なく、質もよくなかったことから井戸は次々と閉鎖されていった。最後まで残ったのは有賀扇作と酒井実である。有賀は昭和16年(1941)から始めて昭和48年(1973)まで採掘を続け、酒井実は大正9年(1920)から操業をはじめたガラス工場の燃料として使用してきたがプラスチックの登場により昭和42年(1967)に廃業した。現在、石油井戸だけが残され、ここ浅川ループラインの道路脇に残されているのである。
 長野県では飯山富倉でも石油が採掘されたが、石油井戸は現存していないため、この石油井戸は長野県に残る唯一の石油井戸でもある。

 浅川地区市制100周年記念事業実行委員会
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自動注油式 深井戸ポンプ
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昭和30年1月 製作番号 1100
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旧道「仙郷橋」(浅川)の上から
浅川の上流方向を見る
浅川ループライン・真光寺ループ橋(長野県長野市真光寺) 浅川油田の石油井戸が
建物の中に保存されています。

資料

・日本石油史編集室「日本石油史」日本石油 1958年
・西山町誌編纂委員会「西山町誌」西山町役場 1963年
・前川周治「石坂周造研究 志士・石油人としての両半生」三秀社 1977年
・「日本の『創造力』 近代・現代を開花させた470人 2 殖産興業への挑戦」日本放送出版協会 1992年
   ・床波ヒロコ「石油事業 過激浪士出身の実業家 石坂周造」
   ・渡辺祝子「相良灯台を建設した、憎めない豪傑」
・真島節朗「「浪士」石油を掘る〜石坂周造をめぐる異色の維新史」共栄書房 1993年


関連項目

相良油田 相良油田石油坑 1873(明治6)年開坑 経済産業省近代化産業遺産 静岡県指定文化財
   静岡県牧之原市菅ケ谷2861-1(旧 静岡県榛原郡相良町菅ケ谷2861-1)
 ※太平洋側で唯一の石油産地、高品質の軽質油を産出、日本で初めて機械式の採油を行った油田


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