技術科準備室


2011年9月〜11月 エンジン少年、現る!

 技術科の学習で、人間がつくりだしてきた原動機の学習をしています。蒸気機関の学習に入ったところで、蒸気の性質について簡単な実験をしたあと、蒸気を使ったエンジンのアイディアを考えてもらいました。アイディアを図示しながら説明を書いてもらったワークシートを見ていたら、1人の生徒が、ガソリンエンジンの構造について細かく図示しながら説明を書いてきました。特にエンジンの性能に重要な役割を果たすバルブ機構が詳細に図示されていました。きっと自動車やオートバイのエンジンに興味があるんだな・・・と思い、後日、技術室にやってきたその生徒に、エンジンやバルブ機構について質問してみました。なんとSV、OHV、OHC(SOHC、DOHC・・・)についてその特徴を正しく答えることができていました。
 その後も話をしていくうちに、ガソリンエンジンの組立キットがあることに話題が進み、生徒の強い希望で、まずは2サイクル(ストローク)・ガソリン・エンジンのキットの組立に挑戦?してもらいました。組立マニュアルは必要ないとのこと・・・教材用で持っている私物を貸し出しました。

2サイクル(ストローク)・ガソリン・エンジン
ロビン エンジン組立キット Robin ECO2EHR(富士重工業株式会社)

数日後、見事に組み上げたエンジンを持ってきました。台座まで自作し取りつけてきました。始動、アイドリング、低速〜高速まで順調です。

さて、次は4サイクル(ストローク)・ガソリン・エンジン
ホンダG100教材用キットエンジン(本田技研工業株式会社)

部品の入った箱の大きさも、重さもずっしり、部品もずっと多くなり、喜びの笑顔・・・

そして、またまた数日後、今度も台座(ゴム製の滑り止めまで付いています)を自作し、エンジンも快調です。ワックスをかけて綺麗に仕上げてきました。スナップオンのステッカー付き(^^)

「先生!もっと何かありませんか?」「・・・じゃあ、レストアに挑戦してみる?」・・・というわけで、10年以上ずっとほったらかしにしてあったエンジンを動かせるように課題を出しました。ちょっと古くなってしまいましたが、パッキンやシャフトのキー、ピストンリングなどのストックしてあった部品も渡しました。キャブレターの洗浄も必要なので、ちょっと無理かなと思いつつ・・・

MITSUBISHI T200(三菱重工業株式会社)

「先生、動きました」「おっ!」・・・アルミ合金部分が酸化して白くなっていたのも綺麗になっています。びっくり!
石油発動機も整備して動かすこともしていると、このとき初めて言ってきました(^^)
数日後、たまたま新聞に「群馬発動機愛好会」の運転会が開催されるという記事を見つけたので、切り取って生徒に渡したところ、家の人と一緒に見学してきたことを楽しそうに報告してくれました。

そして再び「先生!もっと何かありませんか?」
というわけで、今度は上級者コース? ポンコツの3台のエンジンの部品を使って1台の稼働するエンジンをレストアできるか・・・

KAWASAKI (川崎重工業株式会社) 4サイクル・ガソリン・エンジン KF34DL 132cc

「先生、カワサキ グリーンですね」・・・むむっ、中学生なのに「カワサキ グリーン」を知っているとは・・・「ぼくは、カワサキのエンジン、好きなんです」「・・・・・」

「初めは、なかなか回らなくて苦労しました。スバルのロビンエンジン(汎用エンジン)とベルトでつないで回して始動させ、調子を見ました。点火プラグのケーブルが古くなっていたので交換しました。あと、燃料ホースも交換しておきました。マフラーは銀色でしたが、黒の耐熱塗料で塗装し、吸気のフィルターが入っているケースは普通の塗料の黒で再塗装しておきました」・・・カワサキと、なぜかブレンボのステッカーまで付いています(^^)新品のように見えます。低速でのアイドリングも安定していて、高速運転もすごく調子良く回ります。(もはや腕前は私以上です・・・)
地域で開催される生徒作品展に出品してあげようと思います。


生徒が自分で撮影してきて、説明のために見せてくれた写真

きっと本田宗一郎さんも、こんな少年に出会いたかったのでホンダ初の教材用エンジン「T10をつくったのでしょう。
「本田宗一郎さん、あなたの出会いたかった少年が、今ここにいますよ・・・」


ホンダ初の教材用エンジン「T10」(HONDA CUBY)
1961(昭和36)年10月に開設された「多摩テック」での学習教材用に製作された、発電機E40ベースのエンジン「ホンダ汎用エンジンT10」。子どもたちがエンジンの内部機構と作動を知るため、分解・組立に使われました。その後1962(昭和37)年にも引き続き開発が進められ、4サイクルながら3.2kgという驚くべき超軽に仕上がりましたが、結局商品化されず市販されませんでした。

・・・そして現在(2011年9月現在)、本田技研工業(株)の超軽量コンパクト汎用エンジンは、4ストロークガソリンエンジン「Mini-4シリーズ」として商品化されています。特に、空冷4ストローク単気筒OHC 排気量25ccの「GX25」は、世界最軽量(乾燥重量2.90kg、全装備重量3.37kg)、OHC(なんとオーバー・ヘッド・カムシャフト!回転数でパワーを稼ぐための必然的なバルブ機構の選択と言えます)としても世界最小、さらに360度自在傾斜でどんな角度でも連続運転可能、世界の排出ガス規制レベルをクリア、低騒音・低振動、4ストロークエンジンならではの低燃費となっています。・・・実は、「GX25」を搭載した刈払機を愛用しています。(^^)

本田技研工業(株) 汎用エンジンテクノロジー GX25


そして、今日もまた「先生!もっと何かありませんか?」と技術科室へやってきました(^^;)

さて、次はディーゼル・エンジンかな・・・と考えていたら・・・・・・
彼の口から出てきた言葉は、
「先生、例のカワサキのエンジンの残りの2台の部品を使って、もう一台動かせるものが出来るかも知れません。もう少し待って下さい。」
「えっ!・・・」


ヤンマー・ディーゼルエンジン  L40ASSY 199cc


技術のおもしろ教材集 とっておきの話 ディーゼルエンジン

産業技術遺産探訪技術のわくわく探検記 2000.8.23.
ヤンマー(株)尼崎工場 世界最古のディーゼルエンジン 1899年 MAN社(ドイツ)製、ヤンマー ディーゼルエンジン1号機」

※ヤンマー(株)尼崎工場の陳列館には、「世界最古のディーゼルエンジン 1899年 MAN社(ドイツ)製」が展示されています。
それまで実用化が困難とされていた小型ディーゼルエンジンの開発に成功した山岡孫吉は、1955(昭和30)年にドイツ発明協会から「ディーゼル金賞碑」を授与、さらに1957(昭和32)年には「ドイツ大功労十字章」が授与されました。展示されている「世界最古のディーゼルエンジン 1899年 MAN社(ドイツ)製」は、ディーゼルエンジンを発明したルドルフ・クリスチアン・カール・ディーゼル(Rudolf Christian Karl Diesel、1858-1913)が技術者として従事していた「MAN」社(Maschinenfabrik Augsburg-Nurnberg AG)からヤンマー(株)へ寄贈されたものです。


こうして、もう一台のエンジンをレストアしてきました。
こちらはマフラーもシルバーの耐熱塗料で塗装してあり、オリジナル仕様です。
ポンコツから再生したとは思えないほど、エンジンも安定して回転しています!
残った部品もきちんと整理されています。さすが!

さて、生徒のリクエストを叶えるために、次の課題を考えたり、エンジンを探していたところ、埃をかぶった「HONDA GX140」が見つかりました。
もう10年以上は動かしていないもので、オーバーホールが必要です。調べてみると、このエンジンは仕様変更もあると思いますが現在も生産されている機種です。
すべて分解するとしても、その際に生じたトラブル(経年変化によって使えなくなった部品や、分解時の部品の破損など)にも対応できそうです。
さらに、バルブ機構も「OHV」です。(^^)

やる気満々でやってきた生徒に、このエンジンを見せ、「オーバーホールだから、バルブもキャブレターも全部分解していいよ」と言うと、喜んで持って行きました。

・・・数日後、
「先生、大変です。メインジェットを取りはずすときに、折れてしまいました・・・」
と、状況を詳しく説明してくれました。いろいろ質問してみると、キャブレターの構造やメインジェットのはたらきまで、よく理解していました。
こちらとしては、順調に進むよりも、トラブルがあったほうが良い経験になると思っていたので、想定内です(^^)
残留燃料のために、部品のネジ部分が固着してしまったようです。部品が取りはずせたのでよかったと思います。
排出ガス規制のためにキャブレターのメインジェットの仕様は変更されていることも考えられますが、部品そのものの外寸は同一規格でしょう。
部品は発注して交換することとして、次の展開を期待しています。

「先生、今度のエンジンの台座は、溶接で作ったものにしてきます。」「・・・」
生徒自身も自分で考えてバージョンアップしているようです。


こうして「HONDA GX140」のオーバーホールが完了しました。新品のように生き返ったエンジンは快調に動いています。


エンジンの台座は溶接で製作してきました。


交換したキャブレターのメイン・ジェット、メイン・ノズル


地域で開催された発表会で展示しました。会場の係の人の話では、見学した多くの人から驚きや賞賛の感想があったということです。


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