ホンダ・コレクションホール

 1999年6月13日(日)に産業考古学会・自動車分科会の99年上半期研修会が開催されました。今回は昨年、創業50周年を迎えた本田技研工業の製品の全てを展示した「ホンダコレクションホール」を中心とした見学会でした。「ホンダコレクションホール」は栃木県茂木町にある「ツインリンクもてぎ」内にあります。
 ここでは、「ホンダコレクションホール」に展示されているホンダ最初の教材用4サイクルエンジンと、「ホンダコレクションホール」に併設されている「レストア室」を紹介します。「レストア室」は通常は窓越しにレストア作業が見られますが、今回は特別にレストア室内に入ることができました。

ホンダ初の教材用4サイクルエンジ

ホンダ汎用エンジンT10

空冷4サイクル単気筒・SV(サイドバルブ)・19.7cc
最高出力 0.15PS/3000rpm
重量 3.2kg

ホンダ汎用エンジン展示コーナー ホンダ汎用エンジンT10 「HONDA CUBY」は商品化されたときの愛称でしょうか?

 1961(昭和36)年10月に開設された「多摩テック」での学習教材用に製作された、発電機E40ベースのエンジンです。子どもたちがエンジンの内部機構と作動を知るため、分解・組立に使われました。その後1962(昭和37)年にも引き続き開発が進められ、4サイクルながら3.2kgという驚くべき超軽量に仕上がりましたが、結局商品化されず市販されませんでした。

レストア室

 ホンダコレクションホールに展示されている2輪・4輪・汎用の各製品やレーシングマシンは、基本的に実動状態にレストアされています。このレストア作業を行うために「レストア室」があります。全ての製品を発売当時の状態に復元するため、部品ひとつひとつ、ボルト1本にまでこだわるエンジニアの皆さんの作業を窓越しに見られます。今回は特別にレストア室内部に案内していただけました。

レストア室内はたいへんきれいでした。
エンジンブロック この部屋に図面が保管されています。 シャーシダイナモ
動力性能までオリジナルに復元されます!
エンジンの組立 工具類もきれいに整理されています。 ピストン・クランクシャフト
部品ひとつひとつをチェック 加工室(研削盤やサンドブラスト) 工作機械・部品洗浄・・・

  「ホンダコレクションホール」の展示品は次の書籍にすべて掲載されています。
      「夢の実現へ、チャレンジの50年」ネコパブリッシング 1998年  ISBN4-87366-170-6


見学メモ

 6月13日(日)に開催された、産業考古学会自動車分科会 99年度上半期研修会に参加しました。(なんと初参加!)
 今回は栃木県にある本田技研工業の「ホンダコレクション ホール」をメインに、「ホンダファンファンラボ」や国内唯一の ロードコースとオーバルコースのレーシングコースを有する 「ツインリンクもてぎ」を見学してきました。(真岡鉄道蒸気機 関車体験乗車なんていうのも組み合わされていました(^^)今回の研修会は本田技研工業(株)広報部の協力で、通常では見学できないところも案内してもらえました。
  「ホンダコレクションホール」は本田技研工業(株)創立50周年を迎えた1998年3月にオープンしました。1973年の創立25周年を機に本田技研工業は、それまで生み出してき た様々な製品の収集・復元に着手してきました。「ホンダコレ クションホール」には併設して「レストア室」があり、製品の修復作業を窓越しに見学できますが、今回の見学では特別に 室内に入ることができました。もう本田技研工業社内にもない製品をユーザーから買い取り、発売当時の状態に復元(レス トア)していくための施設です。発売当時の状態というのは部品はもちろんそうですが、性能も同じにします。そのため、レ ストア室内にはシャーシダイナモ室がありました。窓越しには あまり見ることができないこういった部屋も自由に見せてもら えました。レストア技術者の小林勝氏を中心に着々と復元作業が行わ れています。
 復元にどのくらいの期間を要するかは、製品に よって全く異なり一般的な日数はわからないそうです。復元のために購入した製品も素人眼には朽ち果てる寸前というの もあります。またオートバイは改造してあるものもあり資料との照合も注意深く行われていました。販売店で実際に修理を行 っていた方に情報提供をお願いすることもあるそうです。レストアを終わり完成した2輪・4輪を試運転するミニコースもつくら れていました。非常にきれいな室内、整然と整理整頓されている工具・工作 機械とレストア中の部品などが印象的でした。
 「ホンダコレクションホール」では、2輪・4輪・汎用のホンダ 各製品をはじめとして、世界に挑戦を続けたレーシングマシン やモータリゼーションの発展に寄与してきた他社の製品が展示してあり、約80%が実際に動かせるそうです。
 「ホンダ のみんなが何を考えて造ってきたか。みんなの造ったものを 皆さんにお見せすればいい。こんな正直なホンダはどこにも いないぞ・・・」
 この創業者本田宗一郎の言葉が、コレクション ホール設立の発端だということです。
 なかでも私が注目したのは、1962(昭和37)年に開発が進められていたT10型汎用エンジンです。17.3ccはホンダ のエンジン開発史上で最小排気量になります。4サイクルな がら3.2kgと驚くべき軽量に仕上がったものの商品化には 至らず未発売に終わりました。このエンジンは多摩テックで子供たちにエンジンのしくみを 分解・組立してもらいながら学習してもらおうと教材用エンジ ンとして使われたということです。デザインも良く、発売されていない のがほんとうに残念です!ホンダ製の教材用エンジン第1号 の発見です。
 CVCCエンジンはもちろんですが、本田宗一郎がこだわっ た空冷方式のエンジン、DDAC(一体式二重空冷)エンジン の冷却フィンには驚きです。デジタルカメラで撮影していって授業で見せるとおもしろいと思います。また、本田宗一郎が「これからは4サイクルの時代・・・」と 言ったような4サイクルエンジンへのこだわり?も、1940年 後半から1950年代当時の車両区分(小型第4種は2サイ クルが100ccまで、4サイクルが150ccまで)に影響されて いたことも1つの要因であることがわかりました。また、船外機に4 サイクルエンジンをつかっているこだわりは、排気ガスにオ イルが混入しないため海水の汚染が少ないからなど、これ まで知らなかった「とっておきの話」を得ることができました。
 ダイムラー・ベンツAG社から譲渡されたダイムラー・ライト ラート(1885年)のレプリカモデルもおもしろいと思います。 バタバタのエンジンに使われた旧陸軍の放出品である無線 機用エンジンは、現在はキャブレターメーカーである三国商 工製だったのですね・・・・(^^)
 コレクションホールから少し離れたところに「ホンダファン ファンラボ」があります。「ものづくり」への意気込みが伝わっ てくる「シリンダーシアター」(上映時間15分)や歩行ロボット、 ジェットエンジン開発など、将来に向けてのホンダのものづく りが紹介されています。今年(1999年)夏に閉館になるということです。
 「会社をいちばんはっきり語れるのは、人でも、歴史でもな い。製品だよ」(本田宗一郎)

(株)本田技研工業は1998年に創立50周年を迎えました。「ホンダ」の50年は単純な成功物語ではありません。失敗と成功、絶望と希望、落胆と歓喜で綴られた物語です。ものづくりにしっかりと基盤を置きながらも、ものづくり企業を超えた「夢」を追い求める姿勢は、時代を超えた「ホンダ・スピリット」として今日でも生き続けているように思います。それは日本のエリート養成システムの教育や、いわゆる一流企業・名門企業などとは無縁で、自分の実力だけを頼りに汗を流し、知恵をしぼっていく本田宗一郎・藤澤武夫の生き方そのものです。
 最近出版されたもので、「ホンダ・フィロソフィー」の50年を詳しくまとめた本として、次の1冊をお勧めします。是非ご覧下さい。
 井出耕也「ホンダ伝」ワック株式会社 1999.5.22. 1800円(税別) ISBN4-89831-012-5


Honda Collection Hall(ホンダ・コレクション・ホール)


もどる