深澤敏夫氏による鑢(やすり)製作
東京都台東区立下町風俗資料館
東京都台東区上野公園2−1
2000.2.27.

 東京・上野公園にある台東区立下町風俗資料館深澤敏夫さんの鑢(やすり)製作の実演が行われるということを知り、教材用のビデオ撮影を兼ねて資料館に行ってきました。資料館の方や深澤さんの承諾もいただけ教材用に、深澤さんのやすり製作の様子や、やすりとその製作に関するお話を収録させていただきました。さらに、やすりの製作を教えていただき実習までさせてもらえました。
 深澤さんは130年の歴史をもつ「深澤やすり店」(台東区東上野)の三代目で約40年「江戸やすり」をつくっておられます。こういった手づくりの職人の方は、全国でも10人もいません。深澤さんは業界最年少です(後継者がすくないことが悩みです)。
 ヤスリの用途は国宝・文化財の修理をはじめとして、下に紹介するさまざまな用途の鑢(やすり)のほか、人工骨、楽器をつくる上で欠かせない特殊なヤスリ(「神戸製鋼」や「ヤマハ楽器」は深澤さんのつくっているやすりを欠かすことができません)や、外科手術用、歯科治療用のやすりなども作っており、いわば「ハイテク職人」でもあります。現代のモノづくりを縁の下で支えているわけです。
 これらのヤスリは「火造加工」−「焼鈍」−「研磨」−「目切」−「焼入」−「酸洗い」「錆止め」工程を経て製作されます。
 ヤスリは道具をつくる道具でもあります。たとえば「ノコギリ」は目立てにヤスリが必要です。ノコギリの登場の陰には、必ずヤスリを作っていた人が存在するわけです。深澤さんは遺跡からヤスリが発掘されると、よく見に行かれるそうです。すっかり錆びてしまっていてもX線写真でヤスリであったことが確認できます。宮城県の東山遺跡、岡山県の随庵古墳から出土した奈良時代のものが代表的なものだそうです。エジプト、イタリア、中国の遺跡からも出土しているということです。正倉院の宝物の中にも小刀と一緒に5本のヤスリが見つかっています。
 ヤスリの語源は、弓矢や鏃(やじり)を削る・・・「矢を磨(す)る」から「鑢(やすり)」となったということです。(※参考文献:苅谷信行「ヤスリ読本」(広島県立工業技術センター))
 深澤さんのお話のひとつひとつが、ほんとうに心に残るものばかりで、あらためて「鑢(やすり)」を再発見したり、その魅力を感じました。 

 下駄、尺八、三味線など伝統的なモノづくりから、靴の土踏まず、楽器のリード、さらには人工骨加工、外科手術用などのハイテクのモノづくりに使われる各種ヤスリ(もちろん深澤さんが作られたヤスリです)
鑢(やすり)をつくるための道具類です。
 ハイテクのモノづくりを支えています!あっ、「神戸製鋼」の製品紹介カタログ!!・・・ヤマハ楽器、外科手術用!
 ほんとうに精密なヤスリをつくるときは、深澤さんでさえ、かなりの集中力が必要だと言うことです。この日持ってこられていたいちばん細かい目のヤスリを見せられて、声も出ませんでした!!!

 見学されている方にも気軽に声をかけて、実際に体験させてくれます。つくりかたのポイントも丁寧にわかりやすく説明してくれます(外国の方にも、ご覧のとおり・・・)。ついついおだてられて・・・・名人気分に(^^;)
 地元の中学生たちも、体験学習で仕事場の方へ来られるそうです。熱処理まで実習できます!

そして、とうとう私自身の実習がはじまりました。(教材用に撮影したビデオから)
「う〜ん、なるほど(^^)」 「おっ、あらっ・・・(^^;)」ただいま実習中
 恥ずかしい!こんなになってしまった・・・(^^;)
「初めてにしては・・・・」とフォロー(なぐさめ!)する深澤さんでした。「熱処理しましょうか?800度くらいがいいですね。」「このまま記念に持ち帰ります・・・・A1変態点は723度で・・・・(^^;)」
 「さすが・・・」2本プレゼントしてもらえました。大切にします。あっ、生徒たちに見せて、私のつくったものと比べてもらおうっと!

「台東区立下町風俗資料館」での「鑢(やすり)製作実演〜深澤敏夫氏」は月1回くらいで開催されているようです。次回は2000年3月26日(日)です。
 また、「深澤やすり店」は東京都台東区東上野6−27−8です。1本からの注文もできるそうです。


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