とっておきの話? ディーゼルエンジン
機械(原動機)の学習で、ディーゼルエンジンに入るときには、ここ何年かは「ヤンマー・ディーゼル」の歌から始まります。別にコマーシャルしようというのではなく、こちらでは、「ヤン坊・マー坊、天気予報」(毎日、夕方にテレビで放送されています)を知らない生徒がまったくいないからです。けれどもディーゼルエンジンそのものは誰も知らない・・・・
今年もまたディーゼルエンジンの学習に入る前に、教材研究を兼ねて、インターネットでディーゼルエンジンについて調べているうちに、
小島直記 著 「エンジン一代〜山岡孫吉伝〜」 集英社(集英社文庫) 昭和58年
という本のあることを知りました。北海道大学の科学史研究室のページにも「小説で読む日本の科学史・技術史」に紹介されています。けれども、すでに絶版になっていました。
世界で初めて小型ディーゼルエンジンの実用化に成功した山岡孫吉・・・ルドルフ・ディーゼルとならんで山岡孫吉も授業で取り上げようと思いました。
インターネットでこの本を探したところ、11月上旬に入手することができました。授業では、圧縮発火実験やディーゼルエンジンのビデオの視聴、ドイツ・MAN社がヤンマーディーゼルに寄贈した世界最初のディーゼルエンジン1号機の複製品(東京・船の科学館)の写真などを使っていましたが、この本を読んで、ヤンマーの由来についても知り、授業でとっておきの話に使いました。生徒は「やまおか・まごきち」で「ヤンマー」でしょう・・・という予想です。
大正9年、農業用3馬力石油エンジン(縦型)の試作品を完成させた山岡孫吉は、翌年3月に横型の変量式石油発動機を発表し、同時に「ヤンマー」の商標を登録しました。
孫吉は、この農業用石油エンジンをつくったとき、「今年はトンボがたくさん飛んどる。きっと豊作やで・・・・」
と言っていた父親の言葉を思い起こしていました。自分の作った石油エンジンが、その豊作の使者でありたい。そうだ「トンボ印」こそ、もっともふさわしい・・・・そこで、「トンボ印」と名付けて新聞に広告したところ、静岡の醤油製造機器メーカーが攪拌器の商標として登録しており、侵害問題が起きてしまいます。商標を買い取ろうとしていた時、販売担当者の江波菊次郎(孫吉と同郷で小学校で2年後輩)が、「いっそトンボの中の親玉であるヤンマとしたら」と助言し、孫吉もトンボの親玉というのがいいし、ヤンマは山岡に近いので、「ヤンマ」に決めました。特許事務所で商標登録するとき、言いやすさをねらい「ヤンマー」とします。
こんな話を生徒に聞かせてやりました。一番前の席に座っていた生徒の一人が「小さなものから大きなものまで動かす力だ・・・・」と思わず口ずさむ授業でした。
群馬県碓氷郡松井田町立南中学校 大木 利治